~シャイアンのぶん殴っても内定でないよブログ~
その1 その2
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大人になるとは一体どういうことなのか? なぜいつの間にか皆、大人になっていったのだろうか。
俺たちがガキのころ。ツネオは社長になりたがっていたし、
シスカちゃんは外交官になりたがっていた。
そして俺は、伊東つばさのような大物歌手になりたいと、夢見ていたのだ。
その夢は体が大きくなるにつれ、より現実的にしぼんでいき、ツネオはしがない会社員に。
シスカちゃんは訳のわからない金融あたりに勤め、そして誰かと結婚して
かつての夢は塵と消えていく。
最初は誰もが、「特別な存在になれる」と信じてやまない。
「大きなことができる」と信じてやまない。
だが、現実は漫画やドラマのようにスンナリとはいかず、
そんなヒーローみたいな存在になるためには、努力とか、忍耐だとか、
そして何より運だとかが重要になってくる。
誰しもがその道程で挫折し、あるいは妥協し、
社会の歯車として四苦八苦しながら働き、身を削っていく。
そこにはスリリングなやりとりは滅多になければ、
英雄とあがめたてられるような事件なんてほとんど、ない。
そうして長年身を削って生きてきたあと、死ぬ間際になって、
「ああ、俺はいい人生を送ったよ……な?」などと、
自分に言い聞かせ、自己満足のうちに人は死んでいくのではないか?
武道館をいっぱいにすることもなく。ミリオンセラーを出すこともなく。
自家用機を購入することもなく。
そんな生き方を「夢がない」と一蹴してしまう者が子供で、
その中にも生きがいを見出せる者が大人なのだろうか?
俺は「夢がない」と思ってしまう。多くの人間が歩むような道なんて、
歩みたくないと思っている。
しかしそれでは、俺は歌手になるための努力をしてきたかというと、「?」である。
ただただ、大声で近所に騒音を撒き散らし、自分の欠点を省みろうともせず、
才能があると半ば自己暗示をかけ、気分がのったときにだけ歌い、
そして皆は俺の音痴さを煙たがった。
中学になって俺は思った。「才能がない」と。しかしそれは逃げである。
「才能がない」というもっともらしい理由をつけて、俺は逃げたのだ。
あのときならば、まだ道はあった。いくらでも道はあった。
本気になれば、できないことはなかった……はずである。
それは何も、俺だけではなくて、シスカちゃんも、ツネオも……そしてノベタも。
掃除機の音で目を覚ました俺は、あかない瞼をこすりながらゆっくりと起き上がる。
枕もとの時計をフッと見やると、時計は既に8時半を指している。
朝日が秋とは思えない鋭い強さで、俺の布団に差し込んでいた。
ジンワリとパジャマが湿っていて、室内は暖かいというよりは暑いくらいである。
ずおーっという、掃除機の音を聞きながら俺は部屋を出る。正面には妹のシャイ子の部屋。
この暑さのなか、襖は締め切られており、中にはシャイ子が熱心にマンガを書いている気配がする。
こんなに朝早くから、精の出ることだ。
ギシギシと古びた階段を降りると、母ちゃんが掃除機をかけているのが見える。
母ちゃんは廊下にぼおっとつったている俺を発見すると、朝もはよからがなり声で喚く。
「いつまで寝てんだい! さっさと家の手伝いするか、大学にでも行きな!」
大学は休みなのだが、弁解するのもめんどくさかったので、適当に生返事して俺は店先に向かった。
俺達の家庭は、自営業で生計を立てている。
昔は地域に密着した乾物屋で、なかなか繁盛していたのだが、
向かいに大きなスーパーマーケットができて以来、客足はグンと遠のいたままだ。
閉められたシャッターを内側から開けると、一気に店内が明るくなった。
正面に見える太陽が、ぎらぎらと俺を照らし、思わず手をかかげ、目を細める。
振り返ると、たくさんの干物が入ったビンのわきに、小さなざるがかかっているのが見える。
ざるの中に入っている小銭は、随分前から179円のままだ。
途端にツネオが羨ましくなる。
俺はビンに入っている干物を適当につまむと、干物を口に入れたまま身支度を整える。
冷蔵庫からパック牛乳を取り出し、そのままラッパ飲みする。
「大学行ってくる」
俺は母ちゃんに向かって叫ぶと、そのまま店先から家を出た。母ちゃんは返事もしなかった。
もちろん、大学へ行く気など毛頭ない。ただそこらをブラッと散歩したかっただけだ。
ブラッとして、空き地の土管の上で寝るのである。
俺は朝の幾分か強い日差しの中、自転車も使わずこつこつと歩き、空き地へとたどり着いた。
有刺鉄線を乗り越え、積まれている土管の上へ腰を下ろす。
そこでボオッと青い空を眺めるに徹した。
思えばなぜ大学などに入ったのだろう。
中学の頃、成績の悪かった俺は3流の私立高校へと進学した。
そこではまるで勉強もせず、大好きな野球ばかりをやるのだが、俺は楽しかったし満足していた。
甲子園へ行くことこそできなかったが、三年の夏、二番手ピッチャーとして夏の大会に出場。
結果は、三回戦で押し出しのサヨナラ四球を出し、
失意のまま引退することとなったのだが、俺の心は晴れ晴れとしていた。
野球の感傷に浸りながら、俺がゆるゆると高校へ通っている秋。
世間一般の高校生はすべて、受験か就職かという人生の岐路へと立たされていた。
俺達の学校は、進学校ではなかったのだが、それでも全校の2パーセントぐらいは
大学へ進もうとするものもいた。
進学組は、就職組とは違って、授業にはあまり出ない。
予備校やら、自宅学習やら、はたまた高校の進学担当の教師の特別補習などを受け、
就職組とは物理的に隔絶される。
そして毎年何名かは、二流の私立、三流の私立に見事合格し、
就職組とは少し違った生活を送ることになるのだ。
その進学組の中に、あのノベタがいたのである。
飄々とした風貌のノベタが、冴えない顔して特別補習を受けているのを見たとき、
俺は言いようもない劣等感にさいなまれた。
無論、ノベタが俺より下であることは確たるものとして、俺の心の内を支配しているのだけれど
(そんな汚いことを考える自分に嫌悪感を覚え始めたのもこのころ)、
ノベタに対して嫌悪を……憎しみを抱いた。
「ノベタのくせに生意気だぞ」
俺はノベタに向かってそう言い放つと、その日中に担任のところに行き、
進学組に加えてもらった。ノベタは意外な仲間が増えたことに、純粋に喜んでいるようだったが、
俺の思惑は違う。ただノベタが生意気だったから。
動機不純ではあるが、そのときの俺は確かにノベタのためだけに大学進学を選んだ。
そうして今、俺は大学に通っている。そしてまた人生の岐路に立たされ行動できないでいる。
理想も何もなく、入れてくれる企業に苦もなく入る。
転職する行動力もない俺は、そこで待遇悪く働かされ、一生を終えてしまうのか。
そんな人生は……
ノベタに会いたい。俺は急にノベタに会いたくなった。
確か最後に会ったのは成人式のときだった。一体やつはどうしているのだろう?
相変わらずノベタらしく、不器用に生きているのだろうか。
それともツネオやシスカちゃんのように、はつらつと、元気にやっているのだろうか。
就活の話をイキイキと話すノベタを想像すると、ざわざわと心が乱されていく。
ノベタノクセニ
心の底からの声なき声が、俺の内部を響き渡らせる。
そして俺はその音響に、怒りに、心身を任せつつありながらも、
心の底では自分が墜ちていくのを認識していた。このままじゃいけない。
俺は土管から飛び降りると、空き地を出、まっすぐにノベタの家に向かって歩き出した。
デキの悪いあいつが、どう生きているか。デキの悪い俺が、どう生きるべきか。
確かめようと思ったのだ。
少ししめった秋風が空き地をざわっと撫でる。
雨に濡れた草木の匂いが、彼の去った後に離散していった。
~最終話に続く~
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● オフレコ ~作者の叫び~ ●
目下の話題は日ハムだろうがよおおおおおおおお!!
なんで俺はこんなもん書いてるんだよおおおお!!! SHINJO!!
「シャイアンのぶん殴っても内定でないよブログ その3 By Y平」への9件のフィードバック
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なんで大人、てか社会人にならなきゃいかんのですかね。
それが今一番の謎です。
てか文おもしろいです。次回作も期待してます。
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続きがこんなに楽しみなブログは他に無いくらい楽しみです。
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クオリティたけぇEEEEE
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あふうぅぅぅ
だふうぅぅぅ
ペペロンチーノ
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↑
俺、こういうカオスっぽいコメント好きでふよ
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びんじょうオブジョイトイぅおぅぅぅぅ
だふうぅぅぅ
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↑盛り上がってぇまいりましたぁ~
taks君が狂うと、ライトが「ちんこ痒い」って言うぐらい違和感あるな
イッケーメン! イッケーメン! taksはイッケーメン
つかさいごの「だふうぅぅぅ」が例のサークルの名前に見えてびびった。
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リアルに面白いし、引き込まれる。
次回は、生きる意味とか働く理由とかが見つかるんでしょうか?
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やべぇこのくおりてー。
あぶうぅぅぅぅ
カルボナーラ
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