いよいよ始まったバカマラソン。
ノリで「白川郷に行こうぜ~」だなんて言っちゃった自分を恨みながらも、
有言実行。これぐらいやらんで、何がブロガーやねん。
ティアラガールブログぶっ潰すという気概でもって、出発した。
「名古屋~白川郷 200キロバカマラソン」の開始です。
「名古屋~一宮市」
たいしが自分から1:30集合とか言ったのに、
「すんません、1:40に着きます」とかいうメールをよこし、
結局2:00に来るという暴挙に出る以外は順調だった。
ちなみに僕の格好はこのようなモコモコ。
氷点下の世界でも十分に耐えうる防寒対策を施してきたつもりだ。
対するたいしはというと、ネルシャツにジーンズというカジュアルなスタイル。
「君、白川なめてんのか」と僕が突っ込むと、
「いやあ、ちゃんとコート持ってきとるってえ」だなんてニヤニヤ。よかった。
しかもなんかダサい靴履いてると思ったら、
この日のために買ったランニングシューズとか言うじゃない。
やっぱたいしはやる男だなと感心しかけたら、たいしがボソリと呟いた。
「今日おろしたやつだけどね」
靴擦れ万歳。
市内は強風が吹いてて肌寒かったが、走ってるうちにジンワリと汗が染み出た。
いいかげん暑くなってきたので僕はコートを脱ぎ、身軽なスタイルに。
脱いだコートがリュックに入らなかったので、リュックにくくりつけたら酷いことになった。
通行人が、「左デカッ!」みたいに笑うのがよく分かる。
つーかそれでなくても、二人ともリュックしょって、
「走ってますよ」オーラを出してるので、市内だとものすごく浮くのな。
一人は左がでかいし、もう一人は靴がダサいしで、
明らかに名古屋にいていい格好じゃなかった。
だもんで信号待ちしてると、ほんとに僕らを見て笑う輩がいる。
車の中から露骨に僕らを見るやつがいる、笑うやつがいる。
ファック、と思いましたねやっぱ。こっちは必死に走ってんだぞと。
てめえら車とか自転車とか乗って恥ずかしくねえのかと。ほんとにブチ切れでした。
なんか腹が立ってきたので、逆に見てるやつをジーっと気持ち悪い顔で
見返してやることにしました。前からケッタで走ってくる青年をジーっと凝視。
笑う暇を与えない凝視。目をそらす青年。目をそらさない僕ら。
伏し目がちに通り過ぎていく青年を見て、
「はっ、ヘタレが」なんて勝ち誇るのが楽しくてたまらない。
まあその横で、車の中から「あいつら何?」みたいに
ニヤニヤ僕らを見てる中年がいたりするんですがね。そんなに可笑しいか。
10キロぐらい走ったところで、僕らの調子も絶好調。トレーニングの甲斐あってか、全然疲れてない。
ももあげとかできちゃうぐらいっす。
そればかりか
「10キロって超楽勝だな」
「な。まだ全然足軽いし」
「考えてみると、200キロっつってもさ。10キロ20セットだと思うと大したことないよな」
「だよな。部活かよって感じ」
「行ける行ける、楽勝だわ」
「白川郷近い」
だなんていう、前衛的な会話が為されるほど僕らは余裕があった。
その後も相変わらず通行人に笑われるなどしながら、
僕らは小粋なトークを楽しみつつコツコツと走った。
だいたい8キロに一度ほど休憩をとり、ズンズン22号線を北上していく。
都市部は景色がつまらんので、走っていてあまり楽しくない。
関係ないけど一宮市はラブホが異常に多かった。
「岐阜県笠松町~関市」
名古屋から走ってくること30キロ以上。ここへ来てようやく愛知県脱出です。
僕らは岐阜県笠松町までやってきました。
まあね、下馬評どおり30キロすぎると割と疲れてきた。
とともに、夜になってきたおかげで精神的に疲れるものがある。
しばらく走ると景色に違和感が出てきた。夜になって景色はほとんど見えないが、
まわりがうっすら山のシルエットで囲まれているのが分かる。
「なんか……山に入ってきてね?」
「俺もそう思う」
ふと横を見やると、そこにおわすはホテル「ふもと」の文字。
ホテルですらこの先が山であることを示している。
やばい、夜に山に入るのはヤバイ。夜の山がいかに危険かを僕らは経験で知っている。
しかし……止まることはできない。まだ40キロ弱しか走っていない。
目的地は白川郷、200キロなのである。
4分の1も来ていないところで一日目を終えるわけにはいけない。
大分疲れてきた足に鞭打って、走る走る。途中、チョコレートやら
SOYJOYやらでカロリーを補給しつつ、人気のなくなってきた岐阜県をひた走る。
するとこのマラソン初めてのトンネルが現れた。正直ひいた。
当然のようにあるそのトンネルにひいた。僕ら徒歩なんすけど……
トンネル内を走るのは予想以上にきつい。なにせ空気が悪い。
長いトンネルでこもりがちの排気ガスが、トンネル中に充満していて、
走っていると非常に息が切れる。
通り過ぎていく車の運転手たちが、「なんで!?」みたいな顔して僕らを見ていくが、
もはやそんなことには構ってられない。
早く抜けたい一心で、いつもより速いペースでひた走る。
800メートル以上という、歩行者には長すぎるトンネルを抜けると、ガクンと疲れがやってきた。
距離にすると名古屋からすでに40キロ強。遅いペースとはいえ、
アップダウンのある山のふもとを走るのは相当きつい。
二人とも段々、口数が減っていき、「何でここにいるんだろう」という思いが膨らんでいく。
この思いが規定値を超えるとギブアップとなる。危険だ。
と、ここで救世主が現れた。漫画喫茶である。
なぜ、こんなところに漫画喫茶が……だなんて思ったけれど、
僕らはためらいもなく入っていった。汗まみれの獣臭い臭いを出しながら入っていった。
ほうほうの体で個室を1つ取ると、二人でシートにぐったりうずくまる。
正直に言おう。グロッキーである。たった40キロ。されど40キロ。
40キロ走って疲れない人間がいようか、いやいない。
これがあと4セット続くと思うと、もはや無理としか言いようがありません。
だれだよ白川近いって言ったヤツ。
「ハンバー……グ……定食……」力ない言葉で店員の姉ちゃんに注文を伝えると、
姉ちゃん、あからさまにひいてる。やめて、そんな目で見ないで。
姉ちゃんがいなくなり虚ろな目で、前にあるテレビをボーっと見ていると、
たいしが何やらゴソゴソしだした。
疲れてるはずなのに何やってんだろ、だなんて見てたら。急に
「プレステ2やろうぜ」
とのお言葉。
負けた。この男には勝てないと思った瞬間だった。
40キロ走ってきてなおプレステ2やれる剛の者、それがたいし。
「三国無双もあったよ」
やりたくない。
ものすごいたいしに絶句しながらも、運ばれてきたハンバーグを無心で食べる。
不味い。これだけ疲れてて不味いってハンバーグってレベルじゃねえぞ。
プリプリしてたら例の店員姉ちゃんがやってきて、
「隣の個室空いてるけどお、使う?」
だなんて言ってきた。なんでタメ口やねん。なめられてる。
そんなわりとダメな満喫で疲れを癒す僕ら。別々の個室に移り、シートで横になる。
しばらくすると、たいしが僕の個室にやってきて、
「疲れに効くクスリあるよ。いる?」
だなんて怪しい錠剤を渡してきた。僕に白い錠剤を手渡すと、
「こっちの黄色い錠剤は僕のだよ……こっちはあげられない。へへへ」
だなんて台詞を残して去っていった。
あいつロッカーだし、たぶんドラッグか何かだと思う。
三時間後、たいしのドラッグが効いたのか疲労はかなり回復した。
足が軽い。まだ走れるぞ。僕らは深夜12時、再び戦場(22号線)へと復帰した。
走っていて思った。まだイケる。全然足軽い。
さらに6キロ走った。寒すぎた。そして疲労云々より、
もはや精神が折れ気味になっている。寝たい。帰りたい。いやだ。
漫画喫茶があったので、ためらいもなく再び入った。
そこは普通に寝れるスペースがあり、シャワーまで完備。
僕らはそこで一夜を過ごすことに決めた。
野宿を決め込んでいた僕らにとって、それは天国のような施設であった。
そして、暖かいシャワーにうたれていると、また「白川超近い」だなんて気持ちになってくる。
もちろんそれは幻想であった。まだ4分の1っすか、まじっすか。
一日目: 走行距離 50キロ弱 白川郷まで残り 約150キロ
地図↓