「バカマラソン3rd 4日目 陸の孤島白川郷脱出」
合掌造り。
見知らぬ大学生によって車で救助された僕達は、深夜も深夜、白川の地に立っていた。
降ろしてもらったときに、「ほんとにここで大丈夫?」と心配されたが、やむなし。
バカマラソン失敗の罪悪感から、せめてあまり迷惑をかけずに終わりたい。
そんな気持ちで、白川は白川でも、何もないんじゃね?
みたいなところで降ろしてもらった。
ほんと大学生さんありがとう。あんなところで人を拾ってくれるなんて、神さまだ。
1万円ぐらいあげたい気持ちでいっぱいだった。
一万円あげるどころか最後に、空腹の僕達にじゃがりこをくださった。
いい人すぎ。じゃがりこ超うまい。
さて、白川についたものの、気温は氷点下5℃。交通機関の動きだす朝まで、
なんとか待たなければならない。
とりあえず、夜も深かったが、近くの旅館に入り、
泊めてくれるよう交渉してみる。
「モウシワケアリマセン、ジカンガイデス。マタオコシクダサイ」
旅館の兄ちゃんは、いかにも「マニュアルどおりです」みたいな口調で
ワザとらしく断った。
例外を認めるわけにはいかない、泊めたいけど泊められない。
悲しいけど、これ、マニュアルなのよね。
みたいなことを暗に表すつもりだったんだろうし、僕らもそれは分かっていた。
しかし微妙にニヤニヤしてたのがかなり腹立たしかった。
たいしが「僕ら走ってきたんですけど……なんとか! なんとか!」
みたいにかなり粘ったが、相変わらずマニュアル野郎は
「モウシワケアリマセン」を繰り返すばかりだった。永遠にマニュアルどおり生きるがいい。
半ば死んでいる足で、とぼとぼと歩いていると、公衆トイレが見えてきた。
その公衆トイレはわりとキレイで、建物内に設置されているため暖かそう。
今後の方針を決めるために、そのトイレでしばらく休むことに。
小便器の前で座り込む二人。たいしは相当疲れているらしく、
「ここで寝る」とか言いだし壁を背もたれにして横になった。こいつすげえ。
そんなたいしを見ながら、しばし呆然としていると、「君も寝ろよ」と言われる。
……やはり抵抗があった。この前見た「幸せのちから」という映画で、
トイレで寝るシーンがあったが、まさか自分がその立場に立とうとは……
腐っても白川だ。世界遺産だ。諦めるのはまだ早い、何かあるはずと思い、
たいしをトイレに残し一人で白川を歩いてみることにした。
ラブホテル、漫画喫茶、カラオケ……泊まれそうなところなら何でもよかった。
するとしばらく歩くと、はるか向こうに「タイムリー」の看板が見えたのだ。
コンビニが……コンビニがあった! 実に30キロぶりぐらいのコンビニである。
僕は痛がる膝を無視して走った。まだ走れたことに若干驚愕したが、
今は目の前にあるコンビニのことだけを考えて走った。
コンビニはやはり最高だった。暖かいし、食料はたくさんあるしいいとこ尽くめであった。
思えばこのバカマラソンは、コンビニなくして成立しない旅だったなあ……
なんて感傷にふけりながら、カップラーメンをすする。暖かい。
少し休んだ後、帰りのルートを決めるため、店員のおじいちゃんに道を聞いてみた。
「あのー、すんません。郡上八幡に行きたいんですけどお。
こっからどうやって行けばいいですかね。バスとか電車とかってあります?」
「ああ~……そうだねえ。郡上八幡はねえ~。こっからだとバスも電車も出てないねえ」
愕然とした。おじいちゃん曰くこういうことらしい。(図参照)
白川から出ているバスは、すべて石川県と高山方面にしか行かないらしく、
JRの駅がある郡上八幡までの交通手段は皆無。
高山には同じくJRの駅があり、そこから名古屋に帰ることも可能なのだが、
あいにく高山に行く道は通行止めになっているらしく、高山にも行けない。
行きはよいよい帰りは怖い。トルネコ1でよく耳にしたワードが思い出された。
なぜ? 行きは歩いて来れたのに、帰り道が用意されてないってどういうこと?
あまりに理不尽な白川のやり口に、再び泣きそうになった。またあの道を歩いて帰れと……?
Be cool自分。まだタクシーがある。タクシーで郡上八幡、
いや、悪くても白鳥のスキー場まで戻れれば、バスがある。
そこから乗り継いで行けば名古屋に帰れるじゃないか。
おじいちゃんに、タクシー会社のTELを教えてもらい、
交渉上手のたいしをトイレから呼び寄せる。
たいしは暖かいコンビニに感動しながら、
タクシー会社に電話、朝に一台まわしてくれるよう頼む。
そして即、断られた。
ありえなかった。たいしが白鳥方面に行きたいと言った瞬間、
めちゃめちゃに断られた。要約するとこんな感じ。
「明日もあさっても予約でいっぱいだから無理」
んなことあるかいボケ! こんな閑散としたところで、
タクシーがそんなに繁盛するかいカスボケ!
お宅のタクシー会社はタクシーが2台くらいしかないのかなああああ!?
いっそ素直に白鳥方面にはタクシー出したくないって言えやああああ!
ってなわけで、白川郷で完全に孤立しました。泣ける。
仕方がないので、おじいちゃん店員には悪いが、コンビニで一夜を明かすことに。
コンビニで時間を稼ぎ、朝方、ヒッチハイクで
白鳥方面まで向かうしか方法は残されていなかった。
というわけで、立ち読み開始。時刻は深夜の2時。
朝が来るまで「あなたの知らない世界 ~囚人の知られざる性活~」
だとか何とか言う漫画を立ち読みすることに決めた。
男の囚人が、看守に掘られてた。興奮はしなかった。
ガクン! 眠すぎてふらつく。座り読みを始める。ガクン!
寝る、寝てしまう。こんなところで寝たら、おじいちゃん店員の機嫌を損ね、
追い出されてしまうかもしれない。
僕はおもむろにその週発売のジャンプと、カップヌードルを購入。
氷点下5℃の外へ出、ベンチでカップラーメンをすすりながらジャンプを読んだ
(まさか白川でジャンプを読むとは!)。
カイロも全身に貼った。寒さ対策は完璧、このまま朝までジャンプを読み続ける計画だ。
だいたいネウロを読んでたあたりで意識が飛んだ。何分たったか分からないが、
ものすごい寒気で再び意識がよみがえった。まずい。死んでしまう。
いったんコンビニに戻り、冷えた体を温める。
たいしが立ち読みしていたので話しかけると、妙にイキイキした口調でこういった。
「トイレ、寝れるよ。」
聞くと、たいし君。1時間ばかり洋式便所で座って寝ていたらしい。
いよいよ僕らのゴミぶりも加速してきました。おじいちゃんにすごい驚かれたとか。
たいしが寝たと聞くと、俄然僕も寝たくなってきた。トイレじゃなくて外で。横になって。
寝れる、ような気がした。心頭滅却すればなんとやら、
僕は再び外のベンチに戻ると、その上に寝袋をしく。
氷点下5℃の世界で僕は自然との対決を試みた。絶対朝まで寝てやるかんね! 生きて!
かくして僕は熟睡することができた。いや、寝れる確証はあった。
カイロを冷えやすい部分に的確に張ったことも功をそうしたのだろう。
しかしそれ以上に、ベンチという地面から離れた場所で寝られたのがよかった。
もしアスファルトに直接寝袋をしいていたら、熱力学の法則により
地面にぐんぐん体温を吸い取られ、地面と熱平衡状態、
すなわち凍死という結末が待っていたことだろう(前回バカマラソンでそれで死にかけた)。
たった30センチ地面から浮いているだけで、生死の境を分けることになる。
なかなか感動的である。
声を大にして言おう、氷点下でもベンチなら寝れる!
おじいちゃん店員が、外で寝る僕を見てしばらく唖然としていたらしいが、
そんなことはどうでもいい。朝方、たいしに叩き起こされ、
白鳥方面に向かう道路でヒッチハイクを開始する。ちなみにこのときたいしに、
「君、5歳くらい老けたな」
などと言われたが、僕もそうだろうなと思った。
写真に写ってるモヤみたいなのは霧です。第三者的な何かではありません。そう信じたいし、そうなのです。
しばらくヒッチハイクをしたが、まだ夜も白んでいない時刻4時半。
車どおりが少ない上に、こんな怪しい二人を拾ってくれるもの好きなんていません。
どんどん無視される。
ひどいのになると、徐行して僕らの顔をちらりと一瞥、
急発進だなんていうファッキンな野郎まで現れる始末。
あれか、女子大生なら乗せたか。女子大生なら。
さっきの大学生がいかに奇跡的かがシミジミ分かってきた。
警察が通りかかって保護されるのを待つしかないのかなあ、なんて諦めてたら、
わりとためらいもなく乗用車が停まった。
「どうしましたあ?」
岐阜県は多治見市にお住まいの田中(仮名)さんであった。
僕らは田中さんに経緯を話すと、田中さんはニコニコしながら車に乗せてくれた。
助かったのだ。
田中さんは一見、イカツイ兄ちゃんだったのだが、
僕らの話でおおいに盛り上がってくれ、車中は非常に和気藹々としたムードとなった。
おまけにJRの駅まで60キロほど送ってくれた。
田中さんが車でビュンビュン来た道を戻っていく様は、
さながらエンドロールのようで僕らは無意味に感動した。
そして思った。車ってはええなって。
近隣住民に聞き込みしてまで、駅まで送ってくれた田中さんに無常の感謝の念を抱きつつ、
僕らはついにバカマラソンを終えることができた。
大学生、田中さん。そしておじいちゃん店員。様々な親切に支えられ、
僕らはなんとか生きて帰ることができた。
んな大げさな、と思う人もいるかもしれませんが、一度やってみてください。
いや、マラソンはしなくていい。せめて僕達が体験した、白川まで残り25キロの闇道。
それだけでも体験するに値するアトラクションです。どんなお化け屋敷よりも怖い。
車で156号線、御母衣湖のPAまで行き、そっから徒歩で白川を目指すだけでいい。
霊感の強い人、怖いのがダメな人は、必ず闇道で絶望を味わうことになります。
是非、一度行ってみてください。なにがあっても責任は持ちません。
あ、車にはねられそうになるので、明るめの服でいどんだほうがいいっすよ☆
それでは長くなったこのシリーズも完結です。
最後まで読んでくれた方はありがとう。僕のくるぶしは治りましたが、
たいしは未だに膝が痛いそうです。笑えますね。
(終)
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「バカマラソン3rd ~4日目 白川郷脱出~」への12件のフィードバック
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お疲れ様でした。感動巨作でした。
生きるとは何かを少し考えられた瞬間でした。
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ブラボー、おおブラボー!
感動しました。いやマジで。
「君、5歳くらいふけたな」
個人的にこのフレーズが一番ツボった。
早く大人になりたい、とシャウトする少年たちに是非「白川まで走れ、真理はそこにある」とアドバイスをカマしたい気持ちになりますなあ。
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すげぇwww
ちょっとやりたくなりました、20kmぐらいで
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お疲れさまでした!!なんかリアルに感動しました。個人的にはじゃがりこのくだりが好きです。っていうかじゃがりこが好きです。
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バカマラソンは人間賛歌!!
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夏にツーリングで東京→山梨→白川郷→名古屋→静岡→東京を走ったんですけど、白川郷→名古屋で雨が降って相当辛かったのを覚えています。
そのとき自分も人の優しさに感動しましたよ^^
おつかれさまでした~。
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すごい…!よくやりましたよ!大体100キロでもものすごい遠いのに…
激しくお疲れ様です!!!
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あれって、雪避けのためのトンネルだったんだ!
崖崩れ防止のためじゃなかったんだ!
そんな無知は俺は、夜にそのトンネル通った方が良さそうやね☆
え?Y平くんついてってくれるの?
それは嬉しい♪
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もうあれだな。このブログの管理人Y平君ともう一人はたいし君にひきつごうかな。
いや半分以上本気で。
あー俺留年とかしたほうがよかったかなぁー。
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とてぃさん>
長いのに読んでくれてほんと感謝ですw 第一号のとてぃさんからのコメント、嬉しかったですw
肉欲棒太郎さん>
再び紹介ほんとにありがとうございましたw
いやあ、あんときは実際自分の顔がふけてるなーって感じはしました。なんか顔が歪んでた。疲れで。
ひっぴーさん>
始めは40キロくらいが妥当ですよw 僕は高1のとき40キロ走ったのが最初です。
伊達まっちょさん>
マジでじゃがりこうまかったです。普段食わないけど、あそこでは格別。でも帰ったらそこまで欲しくはないって感じになりました。げんきーん
仙道さん>
そこまで言うか!
すいんごさん>
ね、優しいひとは優しいっすね。でも白川の人は正直……いえなんでもありません。たいしの番外編を参照にしてもらえば分かると思いますけど。
受験生さん>
でも失敗してるけどね!!!
ぐ~もるくん>
ち、やはりぐ~もるくん。実際がけ崩れ防止かもしれんって思ってきた。
でも……でも、森さんが雪避けって言ったんだもん!
とりあえずぐ~もるくん車で行ってきてよw
DAIくん>
たいしはやらないよ。やるとしたら僕一人で。
つか常識的に考えて、ブログなんてやらずにちゃんと就職、留学したDAI君は正解だよ。
もしDAI君がイギリスから帰った後、学生最後の春休みをブログ更新のみで終えたら微妙っす。バカっす。ちゃんと旅行に行きまくって、経験値高めてるDAIくんは正解っす。気にすんなあ。
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高2の夏休みの思い出としてバカマラソンすると決めました。
一人でやるつもりですが、親友いたほうがいいですか?将来的に。
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パートナーがいたほうが断然楽しいよ。ケンカするけどね…… レポよろしく!