【日記】歯がおかしい

 気づいたら前歯が欠けていた。さらに奥歯もなんだか削れていて、指で奥歯を触るとギザギザと獣のような歯になっている。まるで叉状研歯。このまま行くと縄文時代の大人の階段登っちゃう。まだ現代の大人の階段すら登りきれていないのに。いや、登りたくないけれども。誰が大人になんかなるか。大人って怖いでしょう。こう、会社とか行ったりさ、嫌じゃない? なんだかずっと子供のままでいたいよ僕は。ねえ、ほんと。だいたいいてててててて。奥歯いてえ。びっくりする。どうでもいいこと喋ってる場合じゃない。
 しかしなぜ。縄文時代じゃあるまいし、歯なんか削らなくても大人になれるじゃない。なんで削られてるのか。原因は下記動画を参照されたし。
 http://t.co/fVKy6ESt
 ちなみにこの動画、知らぬ間に僕のiPhoneの中に入っていて、最初見たときは遂に本物のホラー的動画を見てしまったのか……呪い殺される! と一瞬びびったんだけれど、なんのこたあない。同期が、酔いつぶれて寝てる僕を撮影してiPhoneに保存したらしい。なぁんだ。じゃあいいか。
 じゃあいいかじゃない。何だこの音は。「ごりっごりりりりり。ごりごり」寝てる僕から発せられる異音。え、何? 背骨でもくだけてるの? やっぱり着信アリ的なアレ? まあ歯軋り。歯軋りだった。寝てる間に歯軋りで一人叉状研歯やってた。怖いわー。ちっとも大人になれない僕だけれども、夜な夜な歯を削り縄文式成人の儀式かましてた。
 ということで歯医者に行く事になった。皆にとっては一般的なプレイスかもしれんが、僕に取っては実に22年ぶりの歯医者である。そう、歯には自信があった。むしろ僕には歯しかなかった。
 というのもその昔、ブログがもうちょい流行ってたころに、自己顕示欲の強い女子大生あたりが、自分の経歴、所属、資格、何何大会に優勝しただのなんだのをサイドバーに掲載してたのを見て、「あ、僕もやろう」と思ったわけ。そこで記載した経歴が「○○市 歯の健康優良児第2位」、以上。
 経歴に歯の健康優良児のみを記載してドヤ顔してた僕に黒歴史黒歴史連呼するかどうかはおいといて、それぐらい歯が唯一誇れるものだった。この気持ちは分かって欲しい。そんな僕が歯医者に行く。屈辱。この屈辱は測り知れない。
 話がそれたが再び歯医者。札幌JRタワーにある歯医者の入り口をくぐると、なんだか病院というよりは美容院のよう。まあ最近の歯医者はハイカラになったのねえ、などと多少の感銘を受けつつ受付にズドンすると、異常につんけんした女性が、機械のような表情と冷酷なトーンでもって僕に席で待ってるように命令する。この女は合コンとかだと、ただただ「さあ、あたしを楽しませなさいよ」調の態度でタバコ吸ってるタイプ。ちょっと綺麗だからって調子にのるんじゃないよ。歯の健康優良児だぞこっちは。と意味の分からない矜持を高ぶらせながら待つ事1時間。1時間てお前。歯の健康優良児をこんなに待たせるなんて以下略。むしろ率先してみせて欲しいと思うのが歯医者業界の常識以下略。
 そろそろジャンプを何回も読むのは飽きたなーと思ってたところでようやく僕の番が来た。ちっちゃい歯科助手の女の子が「どうぞー」と満面の笑みで迎え入れる。偏見だが歯科助手の人はマジで可愛い人しかいない。僕の田舎の歯医者は顔採用で採ってると聞いた事があるが札幌でもそうらしい。この人は合コンで男を楽しませるタイプ。などと心の中で一人ごちつつ席に座る。
 キュイーンガガガガ。隣の席からすんごい音が聴こえる。人間をドリルで削るとこんな音色奏でれるんだとそら恐ろしい気分になってくる。席に寝かされつつ、頭上のライトを凝視してる様はまるでまな板の上の魚。妙に色んな思考が働くのは怖いから。
 歯医者さんが口の中を金属の変な奴でかき回しながら、フンフン頷いている。冷たい金属棒が口の中を這い回る感覚がどうにも気持ち悪い。ジャンヌダルクも処女検査を受けているときはこんな気持ちだったのかね。まあジャンヌダルクは下の口の検査だから云々と思っている間に検査終了。結果は「軽微な虫歯」「歯軋りによる歯の摩耗」「知覚過敏」「歯並び悪い」と歯科医さんも「えーっとどこまで言ったけ」と忘れるほどのラインナップ。ああ。喪失感がすごい。僕の唯一のキャリアである歯の健康優良児が失われた。もうサイドバーには名前ぐらいしか書く事ない。
 ひとまず重度である歯軋りをなんとかしようということで、歯の摩耗を防ぐマウスピースを作る事になった。歯形をとるってんで、濡れた油粘土みたいのを口に押し込まれ、ぐいぐいと上の歯に押し付けてくる。歯と歯の間ににゅるっと侵入してくるのが何とも言えない気分だ。
 「はーい、そのまま口を開けたまま待っててくださいねー」。え、このままー? だらーりと口を開けたままにしていると、次第に涎が口の中にたまってくる。涎の海は、ますます水位を増し、このままだと口の端からだらりと垂れ落ち、なんかこう口に何かを含ませながらのプレイみたくなる。えー、これみんなどうやって乗り切ってんのー? と焦り舌やら喉やらを試行錯誤させる。なんとか喉の蠕動のみを使いゴクリと涎を飲み込めた。涎のノドゴシがダイレクトに伝わる感じ。突然のフラッシュバック。ああ、5歳のころもこうすれば涎飲めるんだ! と感動した記憶がある。確かあの歯医者さんはアップル歯科とか言う名前だった。歯医者に行く前にポテチ食ってすんごい怒られた記憶がある。なんだかホノボノした。22年の歳月が経ってもこういうノドゴシとかは覚えてるもんなんだと無闇にじぃんとしたね。
 さらに待つ事一週間で、マウスピースが完成した。
マウスピース
 寝る前にこれをパコッとはめて寝るんだが、なんだかこれ。すんごい入れ歯っぽい。どうやって洗うんだろう。水洗いでよいとは言っていたけれど、歯磨きせずはめたら一発で菌がわきそうな……ポリデントとか必要? などと考えながら、もはや誰も見ない昔のブログのプロフィールから歯の健康優良児をそっと削除しておいた。こんなに歯で悩む日が来るとは。皆さんもお気をつけを。
【ニコ動、実況してました。】

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