piles of flashback ~Kさんのパンチラ~

「恥の多い生涯を送って来ました」
 太宰治の「人間失格」。第一の手記は上記の一節から始まる。普通に生活していれば一度は耳にした言葉であろう。思えば作中の葉蔵が自身をいつわり、青年期に悩み、脳病院に送られるまでに多くの恥を犯してきたのと同様に太宰もまた多くの恥を食い、玉川に入水するにいたったのではあるまいか。
 しかし人は誰しも恥だらけの人生を送っていると僕は思う。恥は時折、シャワーやトイレ、入浴といった無心になった隙間にひょっこりと顔を出す。そのたびに「ああああああー」と声なき声を発し、過ぎてしまった恥はあたかもフラッシュバックのように人を苛んでくる。今回はこうしたフラッシュバックの積み重ねを、独白することによって幾分か軽減しようとする試みである。


 春の風が強くなってきた。町中では吹きすさぶ風によってスカートをたなびかせ、白いパンツをちらちらと申し訳程度にちらつかせる光景が増えてきた。
 パンチラ。世の男子は可愛い女性のパンチラを拝んでは、学校の放課後、あるいは安居酒屋の肴として「今日可愛い子のパンチラを見てよう。ラッキーだったね。春の風ときたら花粉を飛ばすだけのはた迷惑なものとばかり思っていたが、存外、悪くないものだな。ははは」などと助平顔を隠す事もなくやいのやいのやっている。
 あるいは、幸運なパンチラを御開帳いただいたものの、その御開帳ヌシの顔面があまり良くないと、男子達は「今日は悪いの食らっちまってねえ。一杯口直しをしたいものだ」などと安キャバクラに赴く。質が良かろうと悪かろうと、一応はよいコミュニケーションの話題として一役買う。パンチラとはそのようなものである。
 僕の脳裏にも中学校時代に見たパンチラが時折よぎる。御開帳主はKさんである。Kさんはテニス部、推定Dカップ。その豊満な体幹を軸に繰り出される強烈なストロークは健康的だけどエロいという相反する性質がある。若干パーマがかった黒髪は健康的に日に焼けたKさんの端正な顔にはり付き、動くたびにぱあっと汗をはじき、なびく。と同時にキュロットスカートから見えるのはVラインの黒い影。これこそパンチラ。そもこういう場合は女子はいわゆる見せパンを履いているのが普通だが、どだい中学生の僕には見せパンだろうがブルマーだろうが等しくエロかった。少なくとも中学男子にとってそれはパンツだったのである。それで顔も可愛いとなればピンフタンヤオドラ4、倍満的な。もう無敵。色々そろいすぎてる。Kさんはそう言った意味で中学校のマドンナ的存在であった。
 そのマドンナのパンチラをいまだに思い出す。
「うわああああああ」
 僕はKさんのパンチラを思い出すたびに叫ぶ。興奮して叫ぶのか。否、胸中に浮かぶのは仄暗い罪悪である。
 話は中学2年生の朝礼までさかのぼる。僕の中学の朝礼は体育館で行われていた。校長だか誰だかが退屈なスピイチを披露している。中学生達はその血にも肉にもならないどうでもいい話を馬耳東風、馬の耳に念仏。そういったテイストでただ黙り体育座りをしていた。体育座りなので尻が冷たい。何か面白いことはないか知らんってことで、周囲をキョロキョロしたり、前後でつっつきあったりなど各々がヒマをつぶしていた。
 僕もご多分にもれず退屈だった。なにかないかと思い、ふと後ろを見た。そこにはKさんがちょこんと体育座りをしていた。おお、やっぱりKさん可愛いなあなんて思いながら頬にできたニキビをプチュリとつぶす。ねばねばと指先についた白いニキビのしんを学生服のズボンになすりつけつつ、Kさんをちらちら見ては目の保養としていた。
 そのときである。嗚呼、スカートで体育座りを命じた教員の愚かしさを呪わずにはいられない。Kさんが思いっきりパンチラをしていたのである。しかもいつものテニス部で見せるあの見せパンではない、いわゆる純白の(そう、それは視覚的な意味でも文学的な意味でも純白でした)パンティーをはいていた。純白のパンティー。こんなにいい響きがあろうか。それこそ男子あこがれの筆頭株。おまけに可愛い可愛い「Kさんの」という形容がつく。Kさんの純白パンティー。最高である。捨てる神あれば拾う神あり。つまらない朝礼を耐え忍んでいた最中の思わぬ幸福。僕は興奮していた。
 次の週、その次の週の朝礼のときも何気ないふりをしながら後ろを見た。Kさんはいつもパンチラをしていた。全て、見せパンではなく本式のパンティーだった。縞模様のときも白いときも、ベージュの時もあった。これは最高のショーである。くそくだらない朝礼は僕の溢れ出るリビドーを満足せしめんショーへと変貌を遂げていた。僕はムチムチギャルを見た時の亀仙人のように「たまらん、たまらんですなあ」とニキビをプチプチつぶしながらKさんのパンチラを楽しんでいた。
 とある週であった。その週の朝礼もKさんのパンチラに心躍らせていた。膿んだニキビの汁は赤く僕の頬をそめ、膿み汁が頬を垂れあごの先にまで達していた。「いよっ! 今日は何色かなあ」と段々ずうずうしくなった僕はもはや堂々と、後ろを見た。
 しかしおかしい。Kさんときたら今日は絶妙にスカートを伏せさせ何も見えないではないか。そんなあ、唯一の楽しみが。しかしあれほど毎週堂々と見せていたKさんが今日は一体どういう了見だと下からなめるようにKさんの顔へと視線を移した時だった。
 Kさんは汚物を見ていた。いや、正確には汚物を見る目で僕を見ていた。Kさんはスカートをずりずりとさらに下へ下へと操り、パンツを隠している。隠しながら気持ち悪そうな目をし、僕を睨んでいた。
 それから大分ときがたった。
 中学生だった僕はいまやすっかり大人になっていた。日々の仕事に追われ、取引先の無理な仕様変更に憤り、それでも自分のパフォーマンスを最大限に発揮して仕事をこなしていた。結婚もした。しかしそのときのKさんの目。パンチラとセットで時折脳裏にフラッシュバックしては僕を苛んでいた。フラッシュバックの時間は時を経るにつれ段々と長くなって行き、このままではこの白昼夢に僕の生活の時間の大半がシフトしていきそうな勢いである。
 このフラッシュバックを沈めるためにKさんと会いたかった。会って、謝りたかった。バカ正直に堂々と「パンチラを見てすみませんでした」と誠実にいくか。いっそのこと一緒に飲んだりして、場が和んだ拍子に軽いノリで告白するか。「いやあ、あんときはKさんのパンチラだけが朝礼の楽しみだったんだよねー」だなんてノリで。Kさんが「やだーもうY平君サイテー!」などと言い言い場は盛り上がるだろう。「Y平はいくつになっても変態だなあ!」だなんてお調子者が囃し立てる。そう、あれは過去の事だ。当時は気持ち悪くても今は違う。過去のことなんて今は笑って流してくれるだろう。ああ、Kさんと飲みたい。脳裏にはまた忌まわしき純白のパンティーがよぎっていた。ああああ、Kさん、助けてくれ。会いたいです。会ってお話をさせてください。
 
 そんなフラッシュバックに苛まれる毎日の中、中学の同級生と飲む機会があった。中学のしょうもない昔話を肴に話をしながら、同級生はなにかの拍子にこう切り出した。
「そういえばさ、この前同窓会があったよ」
「ええ、いいなあ。誰が来てた」
「○○とか、△△とかね」
「うわー懐かしいな。△△とかなにしてんだろうなー」
「なんか離婚して大変らしいよ。子供もいるとかで。まあでもあれだ。ああいう集まりを開いてくれる人はすごいね。今どこにいるかも分からないのに、わざわざご苦労様って思うよ」
「ちなみに誰が主催者だったの?」
「ああ、Kさんだよ。そういえばお前来てなかったな」
 僕の目の前には純白のパンティーがあった。そしてそのパンティーの奥に、Kさんの汚物を見る目が光っていた。僕は頬をかいた。頬にはなにもなく、ただただニキビの跡のみがうっすらと定着していた。

piles of flashback ~Kさんのパンチラ~」への2件のフィードバック

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    パ○チラは最高だ! 女子の太○もとチラつくパン○ィはたまらん♡
    話は脱線するけど、
    私は小学校が埼玉だったので、体育の授業は女子はブルマー、男子は激短パンだった。
    激短パンにはやはりブリーフ! ブカブカのブリーフを履く彼らはよく、玉ちらをしていたもんだ。
    私はそれを見て、ほくそ笑んでいた。
    『青二才が! ツルツルじゃねぇか!!』
    とね!

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    Mもとパイセン
    玉ちらバロスwwwwwwそういえば僕らも短パンだったわ!! あれ確かに今思い起こせば見えてたかもしれない。
    女子もそんなこと思ってたのねwww
    僕も話は脱線するけど、高校のとき一瞬水泳部にいたんだよね。んで、V字のパツパツの競泳水着きるんだけど、あれ最新の注意はらってないと玉ちらするんよ。すげえイケメンのエースが、クロールでベストレコードを出した後、毛だらけの玉をちらつかせてプールサイドにあがってきたときはビビったよ。

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