先日インターン終わってウキウキでおりましたら、友人から「飲もうぜ」と誘われたんす。まあなんせウキウキでしたからね。インターンの打ち上げっつーノリで、とにかく飲みまくってやろうじゃん。ってことで二つ返事で快諾。夜8時ごろにその友人と待ち合わせて飲みに行こうということに。
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大学近くの大通り。その隅っこの一角で、僕は駐輪自転車の陰に隠れるような形で友人を待つ。牛丼屋から爽やかな顔をして出てくる体育会系の男子たち。手をつなぎながら、平和そうな笑顔で歩いて行くカップル。酔ってだみ声を張り上げる男、男を「ひゃはは」と甲高い笑い声ではやし立てるギャル達。行きかう車のライトが、ギラギラと人や店を赤や黄で照らし、夜だというのに街はどこか華やかだ。
こんな中で一人、ポツリとしていると、なんだか惨めに思えてくるのだけれど、今日は違う。だってこれから飲むんだもん。僕にだって、この楽しそうな空気を享受する権利があるはずだ。いつもはガチで一人だけど、今日だけはそうなのだ。となぜか僕は誇らしげだった。
遠くから見慣れた友人がやってくる。夏休み中に会う、久しぶりの友人はどこか不思議な気がする。懐かしさと、気恥ずかしさ。目に見えるわけではないが、お互いが成長しているような気がしたり。
久しぶりの再開を喜んだ僕達は、早速夜の街へと繰り出した。今日はどこへ行こう? とりでんか、村さ来か? はたまた家飲みか? と友人に問いかけると、彼はハズカシそうに口を開いた。
「行きたいバーがあるんだけど……」
バー!? BARっすか!? いやあ、BARは正直ちょっと……キャラじゃないっすよ。と答えるのは夏休み前の僕だ。今の僕は違う。いや、経験多き夏休みを経て、僕は少なからず変わったのだ、と思い込もうとしていた。言ってみれば、この提案は過去の自分からの挑戦。この提案を眉一つ動かすことなく賛同できれば、「自分は変わった」という命題を証明できるような気がした。誰に対して証明を? もちろん自分自身に対して。
というわけで僕達はオシャレバーへと足を踏み入れた。カウンターしかない店内は、薄暗く、フローリングはくすんだ茶色をしていて味がある。カウンターの奥を覗き込むと、英字で書かれた強そうなお酒がズラリと並んでいるのが見える。ボトルの後ろからライトの光が当てられ、青や茶、緑など様々な色の光が溢れてくる。それらの色彩が混ざり合って、店内はなんとも言えない、ダークグリーンな光で包まれている。あちこちに置いてある、乳白色のガラス筒のようなものに、蝋燭の火がゆらめいているのもいい。
客は密着しながら飲んでいるカップルが一組。二人とも、酒に酔ったというよりは、空気に酔ったような顔をし、とても幸せそうだ。バーテンは一人。自信に満ち溢れ、いかにもその道のプロのような手際でボトルを繰りつつカップルに話しかけている。静かな笑い声で店内が満ちる。
僕らはノソノソと店内に入っていくと、所在なげな感じであたりを見回す。そして二人とも思った。「しまった、帰りたい」
若かった。バーという所に踏み入れちゃう自分に幻想を抱いた。僕はバー的な人種ではなかった。というかこのバー、本気である。もっとワールドカップ期に時折テレビで見るような、粗野な感じのスポーツバーみたいなのを想像してたんだけど、こいつは本気だ。例えるなら、となりのカップルが島耕作とその愛人に見えそうな。もしくは藤子Aノリで一人、安いバーボンなどを飲んで愚痴っていたら、喪黒福造がポンと肩を叩き、どーん! つまりはそんな雰囲気のバーだ。これはキャラじゃない。明らかに僕達はこのバーの異物だ。
しかし異物にも異物なりに守らねばならん領域がある。成長を臨む向上心がある。バー様にとっては陳腐であろうが、僕達にだってプライドがあるのだ。絶対に負けられない戦いが、そこにはある。しかし一体、戦いの相手は誰なの? もちろん「バーにいる自分自身」だ。
とりあえずウォッカをストレートで注文、早々に飲み干した。気まずい人と飲んでるときに、早く酔っ払っちまおうってのはよく使う手だが、店自体が気まずくって飲むってのは中々珍しい。そんなのは2年前のクリスマス以来だ。カニ料理店を予約し、彼女とウキウキで入店したら、客がガチで僕らしかいなく、店員が「クリスマスに予約してまでカニって……」とヒソヒソ声で話してた店以来のことだ。そのときもシコタマ飲んだ。
早く酔わねーかなー、だなんて暗黙のうちに二人で飲みまくってたら、状況はさらに悪くなった。というのも、レゲエとか言う形容詞のために存在してそうなイカツイ兄ちゃんが3人、ご来店なさった。言い忘れたが、店内は8畳くらいしかなく、席も10あるかないかである。当然のように、僕の横にレゲエ達が座る。太い腕、自信に満ち溢れた顔と言動。バーテンに親しげに話しかけている。
「マジー東京はでっけえと思ったてー。東京のやつらにあって大分刺激されたし。俺らーのグループのバイブスも超上がったしー。やっぱ地方はダメっしょー?」
バ、バイブス? えっと、何語なんすかそれ。バイブスってあれ、「ピューっと吹くジャガー」とかで、それっぽい用語として出してるだけの嘘言葉なんじゃないの? え、違う? ふぅん。そう使うのかバイブス。バイブス。バイブス。既に八方敵ばかり。前はバーテン、横はレゲエ。残されたのは出口だけ。空気が「帰れ」と僕らを脅す。
しかしここで転機が訪れる。レゲエ仲間がもう一人いらっしゃった。が、先に来てたレゲエ3人と僕達2人で席が埋まっていたため、新レゲエは手持ち無沙汰に店内をうろつく。
ところが、僕らが一つずつずれて席を座れば、新レゲエは3人と合流できる席の配置だった。すると自然、「席をずれろ」という気運が高まってくる。僕はその気配を敏感に察知すると、
「ずれましょうか?」
とレゲエたちに声をかける。GJ自分。やはり僕は成長した。レゲエらが僕にお礼を言う。双方ともニコヤカに和む。バーテンも優しく微笑む。何だかこの瞬間「バーにいてもいいよチケット」を勝ち取ったような気がした。客同士の譲り合い。些細なコミュニケーションではある。が、その些細なコミュニケーションが、バーにいるという気負いを僕から取り去った。イケる。僕はバーに認められた。
そんなことを思いながら席をずれようとしたら、自分のカバンをひっくり返し、ダララララーと床に持ち物が散乱したので死んだ。レゲエたちの足元に教科書やら、ルーズリーフやらがゴテゴテとぶちまけられた。よく見たら、ティッシュとかガムの銀紙だとかゴミまでぶちまけられてた。そういえば僕のカバンにはゴミが入りっぱなしだった気がする。
「すいません、すいません」
と床をはいつくばるのが僕で、それを見下ろしながら「何コイツ天パっちゃってるの」と思っているのがレゲエたちです。早く早くと焦れば焦るほどボロボロとゴミを落とし、もっともテンパッてる人らしい天パり具合を演出する演技派の僕。その瞬間、件のチケットは強奪された。横ではバーテンが、女の子にオシャレなインテリアを見せながら、「アートだよね」と悦に入った言葉を発している。何がアートだ。
……
帰りに「らき☆すた」を借りて深夜に見た。やっぱ僕はこっち側だよなーと思った。こっちってどっちかは分からないけれども。
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「背伸び By Y平」への6件のフィードバック
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オシャレ界って格差社会ですよね…洗練された方々ってどこで洗練されてくるんでしょうか。もしや東京のバイブスとやらが…?
無礼にも人様の米欄でテンション高いですが(すいません(汗)、リアルでは死んだ魚の目をしてます。
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Y平さんがらきすた見てると聞いて僕の中でY平さんの株が急上昇してます。
もとから高いんですけどね。
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Y平さん頑張ってあふれ出るマインドのバイブスをあますことなく鬼チョねりましたね。
これからもアゲアゲな感じで頑張ってください。
PS・今日の文はジャガーのパク理です。
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今回の件は「超オシャレなバーに友達と入った」っていう、アッチ側的な思い出ができたと考えればよいのではないですか?
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saigyoさん>
今日はおとなしめなんすね 笑 いいのに。
しかし死んだ魚の目しながらあんなハイテンションなコメントしてるんすねふふふ
顔文字さん>
やあ、全然バカにできないと思ったよ。平野綾すげーし。4人の話題とか普通に興味深いし。もっと軽々しいのかと思ってた。イニシャルDのパロとか最高だったし。溝走りはきた
GLAYさん>
知ってるよん。バイブスって単語、ジャガーさんから知った単語だったしね。
ななしさん>
アッチこっち行って忙しい人生ですなあぼかあ。アッチを知ってるこっちの人ってことで、ぼかあ得した(?)なあと思いこむことにしますわ
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